研究テーマ

臨床研究

 

HIV感染と感染性ぶどう膜炎―免疫状態マーカー(CD4値・CD4/CD8比)による眼病変の早期診断―

 

HIV感染症では、免疫不全に伴うサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎などの感染性網膜炎が視力予後に直結します。当科では、HIV感染患者の後眼部病変と免疫状態の関連を明らかにし、感染性網膜炎の早期診断・治療介入につなげる臨床研究を行っています。

CD4値・CD4/CD8比によるHIV関連後眼部病変の診断能評価:2014年から2025年1月に当院眼科を初診したHIV感染患者53例を対象とした後向き検討では、HIV関連後眼部病変が13例(25%)に認められました(CMV網膜炎5例、急性網膜壊死1例、HIV微小血管障害7例)。単変量解析では、低CD4値・低CD4/CD8比・抗レトロウイルス療法(ART)未施行・活動性CMV感染が後眼部病変と関連しました。ROC解析で識別能が有意であったのはCD4値のみであり、AUCはCD4値(0.81)がCD4/CD8比(0.74)より数値的に高値でしたが、その差は統計的に有意ではありませんでした(P=0.27)。多変量解析ではCD4値が後眼部病変と関連し(オッズ比0.58/50 cells/μL増加)、CD4値≦100 cells/μLの閾値では感度92.3%、特異度75.0%と高い感度を示し、探索的な閾値となり得ることが示されました。本研究成果は第62回日本眼感染症学会/第59回日本眼炎症学会(2026年8月)にて「HIV関連眼病変のリスク評価におけるCD4絶対数の有用性:CD4/CD8比との比較」として発表しました1。今後もHIV感染症例における眼病変の疫学・診断に関する研究を継続しています。

ヘルペスウイルス性網膜炎(ARN・CMV網膜炎)の臨床的特徴の比較:2014年から2024年に当院を受診した急性網膜壊死(ARN)11例14眼とサイトメガロウイルス網膜炎(CMV網膜炎)27例39眼の臨床的特徴を比較検討しました。ARN群では前眼部炎症と周辺部病変がより高度である一方、初診時視力は両群で同等でしたが、最終視力はCMV網膜炎群で有意に良好でした(P=0.004)。初診時視力不良眼(logMAR 0.3以上)では、CMV網膜炎群で治療後の有意な視力改善が認められましたが、ARN群では認められませんでした(P=0.006 vs P=0.30)。CMV網膜炎のサブグループ解析では、HIV陽性例はすべて男性でHIV陰性例より有意に若年であり(P=0.029)、HIV陰性例は血液疾患例と免疫抑制療法例に分類され、血液疾患例では両眼性病変が多く(P=0.0498)、CMV抗原血症(C7HRP)の陽性細胞数が有意に高値でした(P=0.049)。これらの結果から、患者背景と臨床所見を適切に評価することがヘルペスウイルス性網膜炎の診断・管理に重要であることを示しました2。

新規免疫調節薬使用中に発症したCMV網膜炎の報告:ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬であるウパダシチニブ内服加療中に発症したCMV網膜炎の1例を報告し、新規免疫調節薬使用時の感染性網膜炎リスクを提示しました3(第60回日本眼感染症学会にて座長賞受賞)。

今後も、HIV感染症や免疫抑制状態における感染性眼疾患の早期診断・適切な治療介入を通じて、視力予後の改善に貢献することを目指しています。

参考文献

1. 平井宏昌, 中嶋晶生, 倉岡大希, 西智, 加瀬諭. HIV関連眼病変のリスク評価におけるCD4絶対数の有用性:CD4/CD8比との比較. 第62回日本眼感染症学会/第59回日本眼炎症学会, 2026年8月.

2. Hirai H, Kuraoka D, Ueda T, Kase S. Comparison of Clinical Characteristics Among Herpetic Retinitis: Acute Retinal Necrosis and Cytomegalovirus Retinitis. Ocul Immunol Inflamm. 2025;33(8):1679-1687. doi:10.1080/09273948.2025.2522955

3. Hirai H, Akai Y, Ogata N, Ueda T. Cytomegalovirus Retinitis in a Patient Taking Upadacitinib: A Case Report. Cureus. 2023. doi:10.7759/cureus.48337

 
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