臨床研究
白内障手術と全身・局所関連因子の解析(CLOCK-IOL color studyより)
当科では、白内障手術の前後における全身状態や眼局所の状態の変化を長期的かつ前向きに追跡・検証する、大規模な疫学研究(ランダム化比較試験:CLOCK-IOL color study)を主導しています。この研究では、白内障手術の有無や、透明レンズと青色光カット(着色)レンズのどちらを使用するかが、体内時計(概日リズム)や睡眠の質、さらには加齢黄斑変性(AMD)や心血管疾患などの発症にどのような影響を及ぼすかを検討しており、その解析結果から様々な事実が明らかになってきています。現在までに、このコホートを用いた一連の解析から、以下の重要な研究結果を報告しています。
白内障手術による体内時計(メラトニン分泌)の改善:手術を待機した対照群と比較して、白内障手術を受けた群では術後3ヶ月時点での尿中メラトニン排泄量が有意に増加することがランダム化比較試験により実証されました。これは、混濁した水晶体が取り除かれて非視覚的な光の透過性が向上することで、概日リズムの同調が促され、睡眠障害や代謝疾患などに関連するメラトニン分泌の改善に寄与することを示しています1。
腎機能と黄斑色素量の関連:白内障術後患者の解析から、腎機能(eGFR)が良好である患者ほどMPODが高く保たれることが明らかになりました。この正の相関は年齢やBMI、糖尿病などの交絡因子とは独立したものであり、腎機能障害に伴う血中ROSの増加が黄斑色素の消費を引き起こす可能性が示唆されています2。
眼内レンズ(IOL)の色が黄斑色素に与える長期的影響:術後3年間にわたる追跡の結果、透明レンズ群ではMPODが高く維持されたのに対し、着色レンズ群ではMPODの有意な低下が認められました。これは、青色光が網膜に到達し続けることで、生体が代償的に黄斑色素を維持しようとするメカニズムが働く可能性を示しており、着色レンズのAMD予防効果に対して新たな議論を提起しています3。
これらの結果から、黄斑色素や概日リズムが単なる眼局所の問題にとどまらず、全身の酸化ストレス状態や腎機能、さらには眼内レンズを介した光環境の影響を密接に反映することが示されました。当科では、大規模な疫学コホートを通じたこれら全身および局所因子の包括的な解明により、加齢黄斑変性(AMD)をはじめとする加齢性眼疾患の新たな予防法・個別化医療の確立や、眼から全身の健康寿命の延伸(Eye-Body Connection)に貢献することを目指しています。
参考文献
1. Nishi T, Saeki K, Miyata K, Yoshikawa T, Ueda T, Kurumatani N, et al. Effects of cataract surgery on melatonin secretion in adults 60 years and older: a randomized clinical trial. JAMA Ophthalmol. 2020;138(4):405-411.
2. Tsujinaka H, Saeki K, Obayashi K, Nishi T, Ueda T, Ogata N. Positive association between macular pigment optical density and glomerular filtration rate: a cross-sectional study. J Clin Med. 2023;12(16):5312.
3. Tsujinaka H, Saeki K, Obayashi K, Nishi T, Ueda T, Kase S. Lens color and macular pigment density after cataract surgery: a randomized clinical trial. Ophthalmol Sci. 2026;6(5):101156.